推しに告白(嘘)されまして。
台本を読み進めていくうちに、いよいよラストシーンになった。
ラストシーンは白雪王子が毒林檎の眠りから覚めるシーンだ。
千晴は台本通り、その場に仰向けに転んだ。
その隣に腰掛ける私は、台本越しに千晴を見た。
柔らかな夕日を吸い込むふわふわの黒髪。
そこから覗くあまりにも端正な顔。
高い鼻に形の良い口。
白雪という名に相応しい白い雪のような肌。
閉じられた瞼の長いまつ毛が、美しい顔に影を落とす。
ーーー綺麗な子だな。
私はシンプルにそう思った。
黙っていれば、素行さえ悪くなければ、彼は誰からも愛されるこの天性の見た目を持っているのに。
それを凌駕する悪さが残念ながら千晴にはあるのだ。
「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました。すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」
「…」
ここでお姫様にキスをされた白雪王子が目を覚ます。
男女は逆転しているが、あまりにも有名なシーンで説明の必要のない場面なのだが、千晴は何故か目を閉じたままで。
…聞こえていない?
「呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」
聞こえていないのであろう千晴に、もう一度同じところを読む。
しかし、それでも千晴は何故かその瞳を開けようとはしなかった。
「千晴、起きるシーンだよ」
仕方ないので、台本の内容を千晴に伝える。
すると、千晴は瞳を少しだけ開けて、わざとらしく困ったように口を開いた。
「お姫様にキスされてないから起きられない」
「はぁ?」
ふざけたことを言う千晴に、つい呆れ顔になってしまう。
だが、それはどう考えても千晴が悪かった。
千晴はここまで、相手役がいなくとも、1人でどのシーンも問題なく、完璧にしてきたのだ。
最後のシーンだけ、相手役がいないという理由だけで、できない、と主張するとはおかしな話だ。