推しに告白(嘘)されまして。
「もう一回同じとこ読むから、ちゃんと起きてよ」
呆れながらもそう言い、台本に視線を落とすと、台本を持つ手を千晴に掴まれた。
「ここ1番の見せ場だからちゃんとしたい。キスされて、お姫様が離れて、どのくらいのタイミングで起きれば自然なのか知りたい」
「…」
先ほどとは違い、真剣な眼差しでそう訴えかけてきた千晴に思わず、黙ってしまう。
こんなにともっともらしいことを言われては、言い返す言葉がない。
「…わかった。じゃあ、お姫様役の子も呼ぼう」
「いい。お姫様役は先輩がやってよ」
「は?」
千晴のとてもいい笑顔の要望に一瞬固まる。
何故、私がお姫様役を?
お姫様役の子を呼んだ方が練習になるのでは?
…いや、何か千晴にも考えがあるのかもしれない。
だから私に頼んだのかもしれない。
千晴はいつになく頑張ろうとしている。
こんなにも積極的に、学校行事に参加しようとしている千晴を見るのは、正直初めてだ。
この頑張りがきっとクラスメイトとの仲を深めるきっかけになる。
そのきっかけに少しでもなれるのなら、私もそれを応援したい。
「…わかった。お姫様役、やるよ」
「やったぁ。ありがとう、先輩」
渋々頷いた私に、千晴は本当に嬉しそうに笑った。
それだけこのシーンを大切にしており、きちんと千晴の中で形にしたかったのだろう。
その為に必要な練習相手が私だった。
私で練習して、次のクラスでの練習の時に少しでもプラスになれば、それでいい。
「じゃあ、さっきのところからもう一度いくよ?」
「はぁい」
千晴に改めて確認すると、千晴は軽く返事をし、再びその美しい瞳を閉じた。
練習再開だ。