推しに告白(嘘)されまして。




「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」



まずここまで台本を読んで、私は一旦台本をその場に置く。
それからすぐそこに寝転ぶ千晴に、お姫様役として顔を近づけた。

一体どこまで近づければいいのだろうか。
ここはキスシーンだ。
キスシーンといっても、キスをするフリなので、本当にキスをするわけではない。
が、その適正な距離が私にはわからないのだ。

どんどん近づく千晴の顔に、さすがに恥ずかしくなってきた。
ただの後輩でも、ここまで顔が近いと、恥ずかしくもなる。
吐息がかかりそうな距離に、思わず息を止めた。

そう思った次の瞬間。

千晴はその美しい瞳をパチっと開けた。
どうやらここで白雪王子が眠りから覚め、起き上がるらしい。

恥ずかしすぎる距離にさっさと離れようとしたが、それを千晴に阻止された。
するりと千晴が私の首に両腕を回して、私を捕まえてしまったからだ。

鼻と鼻が今にも触れ合いそうな距離で千晴はふわりと笑った。



「…っ」



こ、こんな感じだったっけ?

あまりにも近い千晴に恥ずかしさとパニックで、息をすることさえも忘れてしまう。
頭も真っ白になり、何が何だかわからなくなった。

しかしそれもほんの数秒で、すぐに私は冷静さを取り戻した。
それでも頬に熱を持ったままで。

台本にはこんなシーンなんてなかった。
白雪王子はお姫様のキスで目覚めて、体を起こすだけだ。
それからナレーションがあるのだ。



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