推しに告白(嘘)されまして。




「だ、台本と違う!」



やっとの思いで、そう指摘すると、千晴は「そうだっけ?」とおかしそうにとぼけた。

…こいつ!絶対確信犯だ!私をからかう気だ!



「やっぱ、練習不足だからわかんないみたい。もっと練習しないと」

「…っ!?」



千晴を叱りつけようとしていると、千晴はおかしそうにそう言って、私の首に回していた腕を自分の方へと引き寄せた。
結果、私は何故か仰向けになっている千晴に抱きしめられていた。

…何故。



「…ちょ、どうして、そうなるのっ!」



訳のわからない状況にとりあえず、千晴の腕の中から逃れようとするのだが、当然、力では敵わず、されるがままで。



「は、離しなさい!」

「えー。やだ」



抵抗する私に聞こえてきたのは、とても嬉しそうな甘い千晴の声だった。

目の前には千晴の首があり、そこから千晴の香りが香る。
甘いような優しいようなそんな香り。
しっかりとした首筋に、私に回されている力強い腕。
至近距離で感じる千晴に頭がクラクラし始める。

相手はあの千晴だというのに。



「は、離さないと噛むよ!」

「…え?噛んでくれるの?」

「血が出るほどね!痛いよ!?」

「いいよ、噛んで?先輩」

「…」



どんなに喚いても、脅しても、千晴には何も効かない。
何故か甘い声音の千晴に心臓がどんどん加速し始めた。

きっととんでもない距離に千晴がいるからだ。
だからこんなにも心臓がうるさいのだ。
全く、心臓に悪い男だ。早く解放してくれ。



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