推しに告白(嘘)されまして。




「あんまりしつこいと警察呼びますよ?」



さすがに我慢の限界を迎え、そう言って、お兄さんたちを睨みつけると、お兄さんの1人がおかしそうに笑った。



「えー。それは困っちゃうなぁ。俺たちお姉さんのお手伝いがしたいだけなのに」



まるで被害者のような表情を浮かべられ、眉間のシワがどんどん深くなっていく。
言葉や態度では、困っているようにしているが、声音だけは楽しそうで、どうやら私の言葉を間に受けていないらしい。
警察など呼べるはずがない、と確信しているようだ。



「ねぇ、いいじゃん。一緒に遊ぼう?」



ついにお兄さんの1人が私の腕を掴む。

ーーーーもう本当に我慢の限界だ。

気がつけば私は、そのままお兄さんとの距離を詰め、お兄さんの服の襟を掴むと、勢いよく回転し、背負い投げしていた。
もし、ここが柔道の会場なら、この綺麗な背負い投げに大歓声が巻き起こるだろう。
だが、ここは柔道の会場ではないので、大歓声ではなく、動揺が広がった。
その中でたった1人、千夏ちゃんだけはキラキラとした表情を浮かべ「すごい!」と感動していた。



「これ以上絡むなら容赦しませんよ?」



構える私に、お兄さんたちの表情が、どんどん曇っていく。
そこには、先ほどまではなかった恐怖もあった。



「え、や、やばそうじゃね?」

「に、逃げる?」



お互いに顔を見合わせながら、冷や汗を流すお兄さんたち。
その時、人混みの中から、誰かが必死に何かを叫んでいるような声が聞こえてきた。

微かに聞こえる声は、徐々にそのボリュームを上げていく。
間違いなくその声はこちらに向かっていた。



「どこにおられますか!」

「お返事を!お返事を!」

「お嬢様!お嬢様!」



徐々にはっきりと聞こえ出した声に、誰が誰を探している声なのか何となく察する。



「「「「お嬢様ー!!!!!」」」」



ついに人混みの中から現れたゴリマッチョSP集団は、千夏ちゃんを見つけると、とんでもないスピードでこちらに駆け寄ってきた。



「お、お嬢様?」

「やばくね?SP?あれSP?」

「俺たち普通にやばくね?」



ゴリマッチョSPたちの登場に、お兄さんたちから一気に血の気が引いていく。
それから「し、失礼しましたぁ!」と叫んで、慌ててその場から逃げていった。

これにて一件落着だ。



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