推しに告白(嘘)されまして。
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「改めてさっきは助けてくれてありがとう。助かったわ」
机を挟んで目の前に座る千夏ちゃんが、優雅に瞳を伏せ、お礼を言う。
私はそんな千夏ちゃんと、その後ろに広がる異世界に、ぽかーんと口を開いていた。
ここは千夏ちゃんに連れられてやってきた、とても高級な雰囲気のカフェ。
内装は、中世ヨーロッパ風のお城のようで、煌びやかながらも、落ち着いた雰囲気がある。
庶民なので、その価値はよくわからないが、カフェ内を彩る装飾や家具は、明らかに特別で高そうだった。
メニュー表に値段が書かれていないことも怖い。
果たしてここのカフェ代を私の所持金…いや、全財産で払えるのだろうか。
たくさんの上品な方々が高そうな服を着て、優雅にお茶をする中、明らかに制服姿の私は浮いていた。
そんな私と、周りに馴染んでいるお嬢様、千夏ちゃんをゴリマッチョSPたちは、通路を挟んで隣のテーブルでじっとただただ見守っていた。
…何とも不思議な光景だ。
「…あのお礼はいいんだけど、事情を聞いてもいいかな?どうしてあんなことに?」
「ああ、あれね。実は…」
遠慮がちに私に説明を求められて、千夏ちゃんは何でもないように口を開いた。
「アナタがたまたま近くにいると聞いてね?わたくし自身の目で、アナタを改めて見てやろうと思って、急いで移動していたの。けれど、途中でどうやらトラブルがあったみたいで、SPたちと一時的にはぐれてしまって…。それであのようなことになったのよ」
「…はぁ」
簡潔に説明を終え、高そうなカップを手に取り、優雅に口にする千夏ちゃんに、間の抜けた返事をしてしまう。
一応きちんと説明してくれているのだが、ちょっと意味がわからない。
何故、千夏ちゃんは私をそんなに急ぐほど見たかったのか。別に見たいのならこの前のように家にでも来ればいいではないか。
そのことを千夏ちゃんに伝えると、千夏ちゃんは呆れたように笑った。
「あら?忘れたの?わたくし、アナタが華守の女に相応しいか見極めると言ったじゃない。あれからわたくし、ずっとアナタを見ていたのよ?あらゆる手段を使ってずっとね」
「…」
千夏ちゃんの言葉に唖然とする。
千夏ちゃんのあの「見極める」発言を、私はもちろんしっかりと覚えていた。
あんなにも強烈な出会いを忘れるはずがない。
…が、千夏ちゃんが実際どのように私のことを見極めるのかまでは全く知らなかった。
だからまさか物理的に見られ、見極められるとは微塵も思っていなかったのだ。