推しに告白(嘘)されまして。




その勘違いも訂正しようとしたが、それを千夏ちゃんの熱弁は許さなかった。



「とにかく!二股はどう考えても許されない行為だわ!だから今すぐやめなさい!お兄様ただ1人を愛しなさい!」



これはいけない。
自分の考えは間違いではないと信じて疑わない千夏ちゃんに頭が痛くなる。
とんでもない勘違いのせいで私が本当に男癖の悪い、最低女になってしまっている。



「千夏ちゃん、もう一度言うね。まず私は嘘をついていません。私は悠里くんと付き合っているの。千晴はただの後輩」



私は千夏ちゃんのとんでもない盛大な誤解を解くために、もう一度ゆっくりと丁寧に言葉を並べた。
そんな私を千夏ちゃんがぽかーんと見つめる。



「沢村悠里と付き合っている?」

「うん」

「お兄様はただの後輩?」

「うん」

「嘘をついていない?」

「うん」



ただただ問いかけてくる千夏ちゃんに、私は淡々と答える。
最初こそ、力強さのあった千夏ちゃんのその瞳から、私の答えを聞くたびに、どんどんと力が抜けていった。



「あのお兄様が片思い?嘘でしょう?」



やっと状況を理解した様子の千夏ちゃんが、ポツリと机に視線を伏せたままそう呟く。
私はその様子にやっと一息ついて、カップに入っていた紅茶に口をつけた。

私が頼んでいたのはアップルティーだ。
口に含んだ瞬間、ほのかな酸味と甘みが広がり、普段飲んでいるどのアップルティーとも違う味わいに驚いた。
おそらくこれが高級の味なのだろう。

紅茶の味を楽しんでいると、静かになっていた千夏ちゃんのオーラがゆらりと揺れた気がした。
まるで真っ赤な炎のように。

違和感を覚えて顔を上げると、千夏ちゃんはプルプルと体を小刻みに震わせていた。



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