推しに告白(嘘)されまして。
「先輩なら何でも似合うね。可愛いから」
未だに楽しそうに話し続ける千晴に、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「あーもう!うるさい!さっさと行きなさい!あの子には好きな人がいたの!わかった!?」
急に叫んだ私に千晴が一瞬だけ、驚いた表情を浮かべる。
だが、それはほんの一瞬で、すぐにいつもの飄々とした表情へと戻り、そこから、さらに頬を膨らませた。
「俺、謎解きに来たんじゃなくて、先輩に会いに来たんだけど」
むくれる千晴を見て、はぁ、と大きなため息を吐く。
「知らないよ、そんなこと。こっちは真面目に仕事中なの。茶化されているようにしか見えないの、今の状況」
「茶化してない」
「茶化してんのよ、それが」
頬を膨らませる千晴の頬をつつけば、千晴は不服そうに私から視線を逸らした。
全く、困った後輩だ。まるで言うことを聞かない大きな子犬だ。
「…ねぇ」
「ん?何?」
しばらく黙っていた千晴が伺うように私を見る。
「わかんないから一緒に来て、お姉さん」
「…」
それから甘えるように私を見た。
千晴の綺麗な瞳がどこか熱を持って、私を見据えている。
それだけ切実なのだろうが、私からの答えは決まっていた。
「行きません」
それだけ言って、首をゆるゆると横に振る。
そんな私を見て、千晴はまた黙った。
何かを思案し始めた千晴を無視して、私は再び、本へと視線を落とす。
何を考えているかわからないが、そのうち諦めて先へと進むだろう。
ここにいても何も起こらないのだから。