推しに告白(嘘)されまして。




「お姉さんが俺と一緒に行けれないのは仕事中だから?」



しばらく沈黙が続いた後、千晴は私にそう問いかけた。



「…」



その通りだ。
本へと落としていた視線をもう一度あげ、無言の肯定をする。
私と目の合った千晴はじっと私を見つめて、「ちょっと待ってて」と言い残して、この教室から出ていった。
何故か出口ではなく、入口から。

つまり、千晴は先へと進まずに、引き返してしまったのだ。



「?」



千晴の行動に首を捻る。
意図が全くわからない。
もしかしたら、千晴の「わからない」は本気だったのか。だから引き返して誰かに助けを求める、もしくは脱出を諦め、スタートに戻ったのか。

…いや、でも「待ってて」て言ってたよね?

どんなに考えても千晴の行動の意味がわからず、首を捻り続けていると、その原因である千晴が再び私の前に現れた。



「お姉さん、お待たせ」



いつものように飄々とした態度の千晴の手には、何故かクラスメイトの男子生徒が。
学ランの首根っこを掴まれている男性生徒は顔面蒼白でガタガタと体を震わせていた。

…一体なんだあれは。

思わぬ、千晴の再登場に瞳を細めて、眉間にシワを寄せる。

颯爽と現れた長身の金髪美人の手に、首根っこを掴まれ怯えた男子生徒。

改めて思う。
…なんだあれは。

何を言えばいいのか、何からツッコミを入れればいいのか、悩んでいると、千晴は嬉しそうに口を開いた。




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