推しに告白(嘘)されまして。
「この人がお姉さんと代わってくれるって」
「…へ?ふぇえ?」
千晴の言葉に男子生徒が、今聞きました、といった様子で目を見開く。
「お、俺、そ、そんなつもりは…」
「何?でもアンタ言ったじゃん。助けてくれるって。だから助けてよ」
「い、言いましたけれど…」
「俺、このままじゃ脱出できないし」
「え、ええ。だから俺が…」
千晴は淡々と言っている。脅しているような素振りもない。
だが、そのセリフ一つ一つが怖いのか、男子生徒の言葉はどんどん弱々しいものになっていった。
さすがにもう見てられない。
「千晴!やめなさい!今すぐ、中本くんを元の場所に…」
椅子から立ち上がり、千晴の元へとずんずんと向かう。
そんな私を見て、千晴は表情を変えた。
「ねぇ?いいよね?」
「は、はいぃ!もちろんでございますぅ!」
千晴に笑顔で凄まれて、男子生徒が泡吹いて倒れそうな勢いで返事をする。
半泣きになっている彼に私はかなり同情した。
理不尽すぎる。
「…だって。だから一緒に行こ、お姉さん?」
男子生徒の答えに満足げに瞳を細めて、その手からやっと千晴は男子生徒を解放する。
「だ、大丈夫?中本くん?」
「…だ、大丈夫。ここは俺に任せて。華守くんをどうかお願い…」
解放された男子生徒の元へ行き、尋ねると、男子生徒は一粒の涙を流し、笑顔でそう言った。
まるで事切れる前のように。
男子生徒から千晴の方へと視線を向ける。
すると、私と目の合った千晴はその瞳をキラキラと輝かせた。
「一緒に行こう」とその瞳が言っている。
…おそらく、ああなっている千晴に「1人で行け」と説得するのは不可能だろう。
そんなことをすれば、周りを巻き込んであの手この手で私をここから動かそうとするはずだ。
ここまでされてはもう私の答えは一つだった。
「わかったよ、行くよ」
「やったぁ」
私の答えに千晴は本当に嬉しそうに笑った。
…全く、困った後輩だ。
けれど、不思議とそれを心底迷惑だと思い、千晴のことが嫌になることはなかった。
愛犬に困らされながらも、振り回させる飼い主は、こんな感覚なのかもしれない。