推しに告白(嘘)されまして。



*****



クラスメイトの中本くんに軽く引き継ぎをした後、急遽、私は千晴の望み通り、千晴と共に脱出ゲームに参加することになった。

私がいた教室を出た後も、もちろん様々な謎がプレーヤーに立ちはだかる。

どこに謎があるのか、その謎を解く鍵は何なのか、最終的にどうなれば脱出できるのか。
一応、主催側なので、脱出ゲームの内容を私は全て知っていた。

だからといって、私が進んで謎を解こうとは思わない。
それではつまらないからだ。
せっかく脱出ゲームに来てくれたのだから、どうせなら千晴に脱出ゲームを楽しんで欲しい。

そう思いながら千晴とどんどんいろいろな教室へと入っていったが、千晴は私の助けなどなくとも、さくさく1人で謎を解いていった。

その姿を見て、私はすぐに「わからない」と言っていたあの千晴は嘘だったのだと察した。



「…私、いらなくない?」



ついにそう千晴に投げかけた私を、千晴が無表情に見つめる。
それから適当に先ほどもらった紙に書かれた文章を指差した。



「ここ、わかんない」



無表情なのに、どこか放っておけないオーラを放ちながら、私を上目遣いで見つめる千晴。
「わからない」と、指差した謎は、明らかに先ほどから千晴が1人で解いている謎よりも簡単で。

私は呆れて思わず息を吐いた。

わかりやすい嘘だ。
けれど、何故か邪険にはできない。


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