推しに告白(嘘)されまして。
「柚子、夜な夜な練習してたって本当?それも1人で?」
「…えー。あ、うん。そうです」
俺の問いかけに柚子が気まずそうに視線を逸らす。
ほんのりと赤い頬を見て、柚子が今、恥ずかしがっているのだとわかった。
「恥ずかしがらないで、柚子。柚子の努力はすごいよ。誰にでもできることじゃない」
未だにこちらを見ない柚子に、俺は柔らかく微笑んで、一度、言葉を止める。
それからまっすぐと柚子を見据えて、ゆっくりと話を続けた。
「でも、夜に1人では危ないよ?今度から練習する時は俺に言ってよ。付き合うし、いい場所とかも教えるから。ね?」
俺の言葉に柚子は大きく目を見開く。
俺からの予想外の言葉に驚いているようだ。
驚く要素などないというのに。
心配して当然だ。
「いや、本当に近所のコートでだからね?治安もいいし、1人だったけど、何人か人もいたし。危なくはないんだよ?」
「柚子はそう思っているのかもしれないけど、俺は心配なんだ。だから遠慮しないで、頼ってほしい」
「…あ、ありがとう。でもね、あの、その…」
「俺じゃ、不満?」
「ち、違います!」
なかなか俺を頼ろうとしない柚子に、どうしたらいいのかわからず、その瞳をまっすぐと覗く。
すると、柚子は頬を真っ赤にして、勢いよく、俺の言葉を否定した。
「あ、あの、私なんかの自己満足努力に忙しい悠里くんを巻き込みたくないの。1人でも十分で、悠里くんに不満があるとかではなく…」
うっすらと冷や汗を流しながらも、一生懸命に喋り出した柚子は小さくて、愛らしい。
俺が傷ついたのではないかと、焦っている様子に、柚子の優しさを感じて、胸が暖かくなった。