推しに告白(嘘)されまして。




文化祭2日目の午後。
私と悠里くんは、さまざまな出し物で賑わっている第一校舎の廊下を歩いていた。

ずらりと並ぶ各教室には、いろいろな装飾がされており、たくさんの生徒や外部のお客さんたちで賑わっている。

定番であるお化け屋敷のクラスの装飾は、暗く不気味に、少し歩いた先にある縁日のクラスは、和風で懐かしく、その向こうにある美術部の展示は、美術館をイメージした落ち着いた白で統一されていた。
歩く先々には、さまざまなクラス、部活、の個性が光る出し物があった。

楽しい雰囲気の中、悠里くんが「考え事?悩みとかあるなら相談に乗るよ?」と心配そうに微笑んでくれる。

どの出し物も今日までの生徒たちの努力の結晶で、素晴らしいものなのだが、それでもこの悠里くんの輝きには勝てなかった。
悠里くんと文化祭中に2人で過ごせるのは、今この時しかない。
この貴重な時間を大切に過ごさなければ。



「悩みとかじゃなくて、昨日のことを考えてたの。楽しかったなぁ、て」

「あ、なるほど。確かに昨日は楽しかったよね」



私の答えに納得したように、ふわりと笑う悠里くんの手は、今、何故かとても自然に私の手を握っている。
しかも指を絡ませる恋人繋ぎスタイルだ。

人で溢れる廊下内を恋人繋ぎで歩く2人。
誰がどう見ても熱々のカップルにしか見えないだろう。

私は悠里くんの行動に、抜かりないな、と感心していた。

千晴の昨日のとんでもない行動のおかげで、現在、学校中で、千晴と私の関係について、大変騒がれている。
千晴と私が実は付き合っているだとか、私の本命は千晴だとか…。全く見当違いな噂が後を絶たない。
その噂に対抗する為の対策が、この人前での自然な恋人繋ぎなのだろう。

あくまで、悠里くんが真剣に私と付き合ってくれているのは、部活に身を入れる為だ。
悠里くんにとってバスケとは、とても大きな存在で、全力を注ぐもの。それを邪魔するものは、できるだけあってはならない。

私という彼女がいるおかげで、悠里くんは以前のように誰かから無理やり好意を押し付けられず、大事な時間を練習に当てられていた。

しかし、その私が少しでも、彼女…という名の壁を全うできなければ、私が彼女である意味がなくなってしまう。また好意を無理やり押し付けられる日々が、悠里くんの大切な時間を奪ってしまう。

だからこそ、今回、カップルコンテストにも出場することにしたのだろう。
その相手が私になるとは、私は前世で一体どんな徳を積んだのか。
たくさんの命を救ってきた英雄だったのか。



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