推しに告白(嘘)されまして。
「あ、先輩」
と、嬉しそうに振り向いた千晴の首元には黒みを帯びた赤のマフラーが適当に巻かれているが、その下には肝心のネクタイがない。
…またか。
その姿に呆れながらも、どすどすと音を立てて近づき、ギロリと千晴を睨んだが、本人はへらりと笑うだけで特に気にしている様子はなかった。
慣れたものなのだろう。
「ネ・ク・タ・イは?」
鬼の形相で強くそう言うと、千晴は視線を適当に彷徨わせた。
「んー。邪魔だったから外した」
「はぁ?今どこにあるの、それ」
「えー。どこだっけ」
「どこだっけ、じゃない!思い出す!」
適当な受け答えを続ける千晴を、私は変わらず睨み続けて、責め立てる。
すると、千晴は少し面倒くさそうに、鞄を探り、ネクタイを引っ張り出してきた。
そのネクタイを「かしなさい!」と、強引に奪い、千晴からマフラーを外す。
それからネクタイを無理やり付けて、千晴の胸に先ほど外したマフラーを押し付けた。
「ネクタイくらいしなさい」
「じゃあ、先輩が毎日俺にネクタイつけて」
「…ほぼ毎日つけてるじゃん。それどころか会うたびにつけてるし」
「うん、そうだね」
呆れたように千晴を見る私に、千晴がどこか嬉しそうに瞳を細める。
本当に手のかかる後輩だ。