推しに告白(嘘)されまして。
呆れて大きなため息を吐いていると、そんな私に何故か千晴は甘えるような視線を向けてきた。
私より全然大きいが、その姿はまるで子犬のようだ。
だが、千晴がこんな瞳で私を見る時は、決まって私を困らせた。
そう私は痛いほど知っていた。
「…何」
千晴の次の言葉を警戒しながらも、そう問いかける。
そんな私に千晴は甘い瞳のまま、ねだるように首を傾げた。
「先輩がマフラー巻いて?」
「はぁ?」
予想通りの主張に眉間にシワが寄る。
やはり、千晴は私を困らせることを言ってきたのだ。
「自分でマフラーくらい巻けるでしょ?」
「でもマフラー外したの先輩じゃん」
「あれは、アンタがネクタイをつけていなかったからで…」
「外した人が責任持ってつけてよ」
何だ、その謎理論。
そう言ってやりたいが、無表情に当然だと言いたげに言葉を紡ぎ続ける千晴に、呆れて何も言えなくなってしまう。
私は何を言っても無駄だといつものように悟ってしまった。
「はいはい。わかりましたよ。全く」
本日何度目かわからない盛大なため息を吐いて、千晴からマフラーを奪うと、雑にぐるぐると巻きつける。
それなのに、千晴は何故か嬉しそうで、私は首を傾げた。
何がそんなに嬉しいんだか。
そんな時、ふと、隣にいた悠里くんの姿が目に入った。
悠里くんは、どこか面白くなさそうに、こらちを見ていた。
いつもの爽やかで柔らかい雰囲気がそこにはない。
悠里くんも千晴の問題行動を問題視しているようだ。