推しに告白(嘘)されまして。




沢村くんと千晴はもちろん面識なんてない。
だが、しかし千晴は本当によく目立つ存在なので、この学校で千晴を知らない者なんて1人もいないと言っても過言ではなかった。



「お待たせ、沢村くん。帰ろっか」



不思議そうな沢村くんだったが、別に説明は不要と判断した私は何事もないように笑顔で沢村くんに近づいた。
そしてそんな私に千晴は「じゃあまたね、先輩」と笑顔で手を振り、その場から離れた。
千晴の目が一瞬笑っていなかった気がしたが、多分見間違いだろう。


改めて、沢村くんと並び、街を歩く。
この時間は部活を終えた生徒も多いので、当然私たちの他にもうちの生徒がたくさん街を歩いている。



「鉄子先輩と王子だ」

「やっぱり付き合っているんだっ」

「噂は本当だったんだぁ」



と、いろいろなところからそんな声が聞こえてくるが、やはりその中には私たちの関係を疑うものは一つもない。
順調に彼女であることを主張できている。



「ねぇ、鉄崎さん。さっきの華守くんなんだけど…」

「ん?あー。あれ?あれは反省文の監督してたからそのついでに一緒にいたんだよ」



少々聞きづらそうに口を開いた沢村くんに私はあっけらかんと答える。
それから「本当にいい迷惑だよね!何言っても言うこと聞かないし、そもそも反省文ちゃんと書かないし!」ととにかく思いつく限り文句を言っていると、何故か沢村くんは笑った。



「ふ、何か楽しそうだね」

「へぇ!?た、楽しくなんかないよ!?」



全くの解釈違いに一瞬、あろうことか推しに怒りそうになるが、くすくす笑う推しがあまりにも尊すぎてそんな気持ちが浄化されてしまう。
推しの自分へ向ける笑顔がこんなにも浄化作用があるとは全く知らなかった。
とんでもない攻撃力だ。





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