推しに告白(嘘)されまして。
「えっと、2人とも、あの、まずは睨み合うのをやめてもらって…」
どうにか2人の仲裁に入ろうと、おずおずと2人を見る。しかし、そんな私を無視して、千晴は続けた。
「別によくない?やましい事なんてないし。先輩も予定ないって言ってるし。彼氏なのに余裕ないんだね?」
煽るようにそう言って笑う千晴に、頭が痛くなる。
私の推しに舐めた態度を取るとはいい度胸だ。
一発、頭を殴ってやろうかと、沸々と湧く怒りを感じていると、それよりも早く、千晴は悠里くんの腕を引いて、耳元へ自身の唇を寄せた。
「そんなに心狭いと、鬱陶しがられるんじゃない?理解のある彼氏くんじゃないと」
私の目の前で、距離を縮めた2人に、いよいよ心配がピークに達する。今にも手が出てしまいそうな2人だ。
そんな私の心配なんてよそに、千晴が何か悠里くんに囁いたようだが、その声は私には届かなかった。
「え、えー!何あれー!」
「だ、誰か!誰かあれ、撮って!」
「待って待って無理無理!新しい扉開いちゃう!」
2人の距離の近さに、周りの女子生徒たちが黄色い声をあげている。
険悪な2人の至近距離のどこが一体いいのか。
私には一触即発にしか見えない。
「…柚子、わがまま言った、ごめん。バイト行っておいで」
「う、うん」
突然、意見が変わり、どこか寂しげに笑った悠里くんに私はよくわからないが、とりあえず頷いた。
暗い瞳の悠里くんと、満足げな千晴。
2人の小さな変化に私は気づかなかった。