推しに告白(嘘)されまして。




…どうやらまだお母さんは勘違いしているらしい。



「お母さん!千晴は彼氏じゃないって前も言ったよね!?」

「もう!照れちゃって!クリスマスをお泊まりで一緒に過ごすんでしょ?付き合ってないわけがないじゃない!」



言い聞かせるように放った私の言葉に、お母さんがおかしそうに笑う。
それから千晴に「ごめんなさいねぇ、この子ったら照れちゃって」と楽しそうに笑っていた。
そんなお母さんに千晴は「いえ」と丁寧に返事をしている。

千晴、敬語とか人様に使えたんだ。
…じゃなくて。



「千晴!アンタも否定しなさい!」

「え?何で?」

「何で?じゃない!」



キョトンとしている千晴に怒鳴るが、本人はそれでも不思議そうで、頭が痛くなる。
お母さんも千晴もまるで私がおかしいのだと言いたげな目で私を見てきて、私は頭を抱えた。

何故、真実を言っている私が、こんな目で見られないといけないんだ!



「あのね、お母さん。私はこれから後輩の千晴の家に住み込みでバイトに行くだけで…」

「お義母さん。俺は柚子先輩の後輩で、彼氏です」



今まさに丁寧にお母さんの誤解を解こうとしているというのに、それを無表情な千晴が遮る。
あまりにも堂々としている為、嘘をついているくせに、そうは見えないのが、とても悔しい。

さらりと人のお母さんのことを、お義母さんと呼ぶな。



「千晴、アンタ…」

「時間ないから行くよ、先輩。それじゃあ失礼します」

「はぁーい。楽しいクリスマスを過ごしてねぇ」



文句の一つでも言ってやりたかったが、それは叶わず。
嘘を嘘だとは思わず、すっかり信じ込んでいるお母さんに笑顔で見送られて、私たちは家から出たのだった。




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