推しに告白(嘘)されまして。
「ちがっ、沢村くんはわ、悪くない、から!」
あまりの良さに動揺しすぎて上手く喋れないでいると、沢村くんはそんな私にスッとスマホを出してきた。
「連絡先交換しよう、鉄崎さん」
「はい!」
もう誰が悪いとかどうでもよかった。
ちょっとだけ気恥ずかしげにはにかむ沢村くんがもう全てだった。
きっと彼のこのはにかみは世界の全ての悩みを解決するだろう。いや、宇宙、だ。
それから私たちは連絡先を交換した後、駅まで一緒に他愛のない話をしながら帰った。
そして駅で別れた。沢村くんと私は帰る方向が反対だからだ。
電車に乗り、1人になった私は座席に座ると早速制服からスマホを取り出した。
こ、このスマホの中に推しの連絡先があるっ!
私はいつでも推しと連絡を取り合える!
すごい!すごい!彼女ってすごい!
今すぐにこの素晴らしい出来事を雪乃に伝えなくては!
そう思い、連絡用アプリを開くと、スマホの画面に一件の通知が表示された。
『明日は朝練だから一緒に行けれないけど、今日みたいに帰りは一緒に帰らない?』
と、まさかの沢村くんからのもので。
「…っ!!!??」
えええええええ!!?
自分の目を疑うとんでもないものに私はスマホを凝視した。
あ、いけない!推しの時間を一分一秒も無駄にしてはいけない!
喜ぶことも、自分の目を疑うことも後回しにし、とりあえず気持ちを切り替えて、私は至って冷静に沢村くんに返信を急いで打った。
『うん!ぜは!』
送った後に、ぜひ!を、ぜは!と送ってしまったことに気づき、電車の中で15分も後悔することになるとはこの時の私はまだ知らない。