推しに告白(嘘)されまして。
彼らが噂していることは、何もかも違う。
私は溺愛されている婚約者ではないし、誰かの目を奪うような美しさもないし、かなりの才女でもない。
ただの千晴の面倒をよく見る先輩で、千晴の横に立てば、かすむほどの見た目で、ほどほどに努力した分だけの優秀さしかない存在だ。
しっかり合っていることは、〝庶民〟、ただ、これだけだ。
あまりにも違いすぎる彼らの私の印象に、げんなりしていると、その声は聞こえてきた。
「お兄様!お義姉様!」
凛とした可憐な声が、この広いホール内に響く。
美しい声音と共に、私たちの前に現れたのは、千夏ちゃんだった。
「お会いできて嬉しいですわ。今日という大事な日を、お二人と過ごせて、わたくし、とても嬉しい」
ふふ、とまるで天使のように可憐に微笑み、瞳を細める千夏ちゃんに、ホール中が感嘆の息を漏らす。
「やはり、千夏様は可憐でいらっしゃる」
「あの千夏様にまで認められているお方だったとは…」
「〝お義姉様〟と呼ばれているということは、結婚も近いのかしら」
またざわめき出したホールに、私は心の中で、はは、小さく苦笑した。
さすが、千夏ちゃん。
とても策士で、実行までがスムーズだ。
千晴が私をとにかく大事に扱い、千夏ちゃんまでもが、ああいうふうに私を扱えば、誰もが私を、〝千晴の大切な婚約者〟だと思わざるを得ないだろう。
何故、私が今、黙って、千晴の婚約者であることを受け入れているのか。
それは、それこそが、私の本来の仕事だったからだった。