推しに告白(嘘)されまして。
千晴は将来有望すぎる人材だ。
見た目の美しさもさることながら、あの華守の跡取りであり、何をやらせても完璧にこなす技量まである。
全てが揃いすぎている千晴を、世界中のお金持ちたちは喉から手が出るほど欲していた。
その為、こういった集まりでは、本人にその気がないにも関わらず、頻繁に婚約話を持ち出されたり、時には既成事実まで作ろうと、あらゆる女の人が送り込まれるらしい。
そういった厄介ごとから身を守る為に、今回私にここへ来てもらうことをお願いしたようだ。
千晴が「私ではないといけない」と言っていた理由が、これだった。
もちろん、私は千晴からのお願いを聞く、と約束していた以上、かなり戸惑ったが、婚約者役を受け入れた。
「柚子、大丈夫?」
「ウン、ダイジョブ」
私の顔をどこか心配そうに覗く千晴に、私はぎこちなく頷く。
千晴が私のことを、先輩と呼ばず、呼び捨てにしているのも、私が婚約者役だからだ。
「千晴様、ご無沙汰しております。そちらのお方が千晴の仰っておられた大切なお方ですよね?」
たくさんの視線を受ける私たちの元に、とても丁寧な態度で50代くらいの紳士な男性が現れる。
「ああ、そうだ」
そんな男性に千晴はいつもとは違う、高圧的で、だがそれだけではない、高貴な態度を取った。
「やはり、そうですか。お名前をお伺いしても?」
「柚子、自己紹介できる?」
だが、その圧も、高貴さも、私には向けられなかった。
千晴は男性から私に視線を移し、柔らかく私に微笑んでいた。
「…鉄崎柚子と申します」
私は本日何度目かわからない挨拶を、何とか作った笑顔で言葉にした。