推しに告白(嘘)されまして。
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疲れた…。
何度も何度も繰り返される挨拶地獄に、私は1人放心していた。
この上品で煌びやかな世界は、私には非常に合わなすぎる。
無理やり上げていた口角が痛い。
明日は確実に筋肉痛だ。
「柚子、はい」
今にも魂が抜け出してしまいそうな私に、千晴が水の入ったグラスを渡す。
…一体、いつの間に。
千晴は私から片時も離れず、私以上にたくさんの何だか凄そうな方たちの対応をしていた。
そんな千晴が一体いつ、水入りグラスを用意してくれたのだろうか。
私の疑問の視線に気づいたのか、千晴は柔らかくその瞳を細めた。
「そこのウェイターから貰ったんだよ」
「…え」
千晴に言われて、その視線を辿れば、確かにそこには水入りグラスが置かれた銀のトレイを持っている男性のウェイターの姿があった。
よく見れば、ホールのあちらこちらに彼らはおり、そのトレイには水入りグラス以外にも、軽食やワインなども置かれている。
「何か欲しければ、近くのウェイターに言えばいいよ。落ち着いてきたし、向こうのビュッフェに行くのもありだし」
「…ビュッフェ?」
千晴の淡々とした説明に、自然と私の瞳は輝き出す。
忙しすぎて、全く見ていなかったが、まさかビュッフェがここにあるとは。
お金持ちのクリスマスパーティー。
しかもあの華守グループ主催。絶対にとんでもなく美味しいメニューたちが並んでいるはずだ。
「…ビュッフェ」
「あはは、柚子、わかりやすー」
しきりに〝ビュッフェ〟と呟く私に、千晴はおかしそうに笑った。
「それ飲んで落ち着いたら行こうね」と千晴に言われ、こくこくと何度も頷く。
やっと、挨拶地獄から解放され、少しでも楽しい時間がこれから始まるのだ。
そう私は思っていた。
この時はまだ。