推しに告白(嘘)されまして。
「千晴」
厳格そうな低い声が、千晴の名前を呼ぶ。
水を飲むことを一旦やめ、視線を上げれば、そこには端正な顔立ちの40代くらいの男性と、これまた綺麗な男性と同世代くらいの女性が立っていた。
そこにいるだけで空気がひりつく男性は、威圧感が強く、威厳を感じる。
逆に横にいる女性は、とても小さく、まるで存在を消しているようだった。
「父さん、母さん」
2人を見つめ、千晴から出てきた言葉に、ああ、と妙に納得する。
ただものではない雰囲気はあったが、どうやら2人は、千晴のご両親のようだ。
確かによく見れば、千晴のお父さんの端正な顔立ちは、千晴と千夏ちゃんによく似ていたし、お母さんの可憐さは特に千夏ちゃんとよく似ていた。
「その娘がお前の選んだ婚約者か」
こちらを一瞥し、挨拶することもなく、すぐに千晴のお父さんは、真剣な顔で、千晴に問いかける。
千晴はそんな厳格そうな父親相手にもいつも通りで、「うん」と軽い感じで、返事をしていた。
その返事に、千晴のお父さんが、上から下までじっくりと品定めするように私に視線を走らせる。
不躾なその視線に、嫌な気持ちになったが、そこは柔らかい笑みを浮かべたまま、耐えた。
これが今日の私の仕事だ。
「…うん。見た目は悪くない。だが、庶民の出だとか。そのような者が本当に我が華守に相応しいのか?」
片眉を上げて、疑うように、千晴のお父さんが、千晴を見る。
しかし当の本人は、気にする様子などなく、淡々と口を開いた。
「誰が相手だろうと関係ないでしょ。俺は俺の力だけで、華守を大きくできるし。それに柚子は、庶民の出だけど、優秀な人だよ?」
ゆるい声音だが、その中にはどこか強さもあり、千晴のお父さんは顔を明るくさせた。
「よくぞ言った、千晴。華守を受け継ぐ男はそうでないとな。誰の力も、どこの力も借りない。1人でやっていける絶対的な手腕こそ、華守に必要な力だ。お前はそれができる人間だ」
「…」
嬉しそうに笑い、ポンッと千晴の肩を叩く千晴のお父さんに、千晴は無表情のままで。
まるで親子には見えない会話に、私は1人隣で違和感を覚えていた。
とてもじゃないが、我が子にかけている言葉には見えない。