推しに告白(嘘)されまして。




「そこのお嬢さん、柚子さんといったか。柚子さんの成績証明書、それから諸々の資料をまた送りなさい。お前の選んだ女性のことは、こちらも知っておきたい」

「わかった」



千晴の淡々とした返事を聞き、千晴のお父さんは満足げに瞳を細めると、「では、また」とその場からさっさと去っていった。
ついに何も言葉を発さなかった千晴のお母さんは、去り際に、会釈だけしていた。

…何だあれは。

去っていく、2つの背中に、眉間にシワが寄っていく。
先ほどのあの短い会話を改めて思い返してみても、やはり違和感しかない。
まるで、自分の所有物が完璧であるかどうかを確認しているような千晴のお父さんのあの言動に、私はとても不快な気分になった。
それなのに、隣にいた母親は、我が息子に挨拶の一つもせず、ただ黙って聞いているだけで。
2人とも我が子を我が子として扱っていない、そんな印象を持った。

あんなのが両親なのか。

気がつけば、無意識に、私は千晴のスーツの袖をギュッと握っていた。



「あはは、何?柚子?早くビュッフェに行きたいの?」



先ほどの無表情で、どこか冷たかった千晴とは違い、優しく笑う千晴に胸が苦しくなる。
あんな両親なのに、千晴は本当に何も思っていないようだ。



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