推しに告白(嘘)されまして。




「…違う」



何て言えばいいのかわからず、私はとりあえず、千晴の言葉を小さく否定して、視線を伏せた。

今、あんな両親の悪口を言うのはきっと違う。
千晴自身は何も思っていないのだから。

けれど、千晴がどこかいつもひとりぼっちのような雰囲気を漂わせていたのは、あんな両親の元で育ってきたからなのかな、と思ってしまった。
勝手に自由に生きて、周りを困らせて、怖がらせて、1人になっているのだと、思っていたが、それだけではなかったようだ。

千晴は元々、寂しくて、ひとりぼっちだったのかもしれない。

千晴には、甘えられる環境はあったのだろうか。
それを許す存在はいたのだろうか。

千晴が育ってきた環境を考えれば、考えるほど、胸が重たくなっていく。

私が千晴にできることはなんだろう。
私は少なくとも、今、千晴が甘えられる存在の1人だ。今後も、先輩として、それを許してあげたい。

そこまで考えると、私は掴んでいた千晴のスーツの袖を離し、千晴の右手を両手で握った。
それから視線を上げて、まっすぐと千晴を見つめた。



「先輩として、千晴の面倒くらい見てあげるから。だから遠慮せずに甘えていいんだよ」



私と目の合った千晴が、その綺麗な目を珍しくパチクリさせる。
私からの予想外の言葉に、最初は驚いた様子だったが、すぐに状況を理解し、嬉しそうに笑った。



「それってプロポーズ?」



からかうように軽くそう言った千晴を、私はキッと睨みつける。



「違うわ!」



人が真剣に言っているのに、何、からかっているんだ!
バカ!

私に睨まれても、千晴はどこか嬉しそうで。
その笑顔に、私は心の底からホッとした。



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