推しに告白(嘘)されまして。
11.やがて興味は恋となる。
1.扉の向こう
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煌びやかで、上品な異世界の上流パーティーに紛れ込んだ次の日の朝。
私は千晴の部屋の隣に用意された、とんでもなく広い部屋で、一晩を過ごし、今は身支度をしていた。
いつの間にか用意されていた昨日も着たクラシックな落ち着きのあるメイド服に袖を通し、改めて鏡で身なりの最終確認をする。
きちんとした白と黒のメイド服に身を包む私は、いつもより、上品で、しっかりとした印象を与える。
見た目だけならいいとこのお屋敷の由緒正しいメイドさんだ。
「よし」
小さくそう言って、気合を入れると、私の雇い主である、千晴の部屋へと行く為に、ドアノブに手をかけた。
「あれは優秀だ。好きにさせておけ」
それと同時に聞き覚えのある、厳格な男の人の声が扉の向こうから聞こえてきた。
ーーー千晴のお父さんの声だ。
千晴のお父さんの冷たい声に、私は手を止めた。
「確かに柚子様とお付き合いされてから、千晴様は随分落ち着かれました。ですが、千晴様に必要なのは、決して柚子様だけではございません。千晴様の健全なご成長をお望みでしたら、ほんの少しでも千晴様と家族としての時間を…」
千晴のお父さんと話しているのは、どうやら執事長の影井さんのようだ。
影井さんの声は、丁寧だったが、どこか必死に訴えるものがあった。
しかし、その訴えは途中で遮られた。
「健全?そうだな。犯罪者になるようなことはあってはならないな。だが、それをするのは俺の仕事ではない。お前の仕事だ、影井。俺たちは確かに血を分けた家族だが、それ以前に、華守一族の男だ。社長とその跡取り。あれは華守がこれからも大きくなる為の歯車の一つにすぎない。愛情を注ぐものでもないし、その時間が勿体ない」
「ですが…」
「この話は終わりだ。次の話をしろ」
「…はい」
反論さえも許さない、高圧的な千晴のお父さんの主張に耳を疑う。