推しに告白(嘘)されまして。
ここは千晴の部屋の真隣だ。
つまり、このあまりにも冷たすぎる会話を、千晴が聞いている可能性だってある。
こんなにも、平然と我が子を道具として扱い、日常的に、これを千晴は聞かされてきたのか。
だんだん腹が立ってきて、何か一言物申したくてたまらなくなる。
一度止めた手に再び力を入れ、ドアノブを思いっきり引っ張ろうとしたその時。
「…っ!」
誰かに後ろから抱きしめられたことによって、それはできなくなってしまった。
誰!?と一瞬だけ、驚くが、鼻をかすめる香りに、その驚きが消えていく。
甘く優しい香り。
この香りの持ち主は、千晴だ。
「…千晴?」
おそるおそる私を抱きしめる人物にそう確認すると、その人物はクスッと笑った。
「せーかい。ちゃんとご主人様がわかって偉いね、先輩」
ゆるい千晴の言葉に、呆れて力が抜ける。
朝から何の冗談だ。しかも何故、ここに千晴がいるんだ。
その疑問を千晴にぶつけると、
「あそこ見て」
と、千晴はとある場所を指差した。
千晴が指差した場所には謎の扉がある。
千晴に言われるまで気づかなかった。
「ここと俺の部屋繋がってんの。ここも俺の部屋みたいなものだから」
「…え」
淡々と説明した千晴に固まる。
つまり、わざわざ廊下に出なくとも、千晴の部屋…いや、ここも千晴の部屋なので、千晴のところまで行けたということか?