推しに告白(嘘)されまして。
2.つまらない日々 side千晴
side千晴
ああ、好きだな。
俺の腕の中で、必死に腕を回して俺を抱きしめる小さな頭に、愛しさが溢れ止まらない。
好き、好き、好き。
たくさんの愛おしい想いが、溢れては消えていく。
やっぱり、先輩は正義の人だ。
まっすぐで愛情深くて、誰にでも平等で、優しい。
そんな先輩だからこそ、自然と惹かれた。
そして気がつけば、どうしようもなく好きになっていた。
小さくて柔らかい先輩の体を、ゆっくり、壊さないように、けれど、もうここから逃げられないように、抱きしめる。
先輩と俺では最初は住む世界でさえも違った。
それなのに、何故、俺は運命的に彼女と出会えたのか。
それは、約一年前のこと。
*****
中学3年生の秋。
数ヶ月前は見たこともなかった、ギラギラと俗っぽく輝く色とりどりのネオンを横目に、俺は何となく、道の端に座っていた。
ここ最近の夜は、昼間ほどの熱をもう持たない。
1人佇む俺の頬に、ほんの少し肌寒い風が当たる。
けれど、家に帰りたいとは微塵も思わなかった。
自分の人生に不満などなかったが、何もかも思い通りになることが、逆につまらなくて、周りを困らせてみようと思った。
学校にはろくに行かず、家にもなかなか帰らず、こうやって、いろいろな街を彷徨ってみた。
最初は、初めてのことばかりで、どれも新鮮で楽しかった。
自力で電車に乗って街に出るのは、車で移動するよりも、面倒だが、自分の力で移動しているようで、面白かったし、見たことのない景色ばかりで、まるで別世界にでも迷い込んでいるようで、悪くはなかった。
統一感がなく、ごちゃごちゃと、さまざまなところで、ここにある、と主張し続ける店の並び。
コンビニも、ネカフェも、カラオケも、ホテルも。
何もかもが、俺の目には新しかった。
そんな世界を見ていると、よくわからない輩に絡まれた。何故絡まれたのかわからないが、俺を殴ろうとしたので、試しに殴り返すと、拳は痛かったが、これはこれで楽しかった。
喧嘩は実力主義だ。
どこの誰であろうと関係ない。
そんな純粋な実力主義の世界は、生まれて初めてだったので、つまらないと思っていた人生に、新たな楽しさを与えてくれた。