推しに告白(嘘)されまして。




そんな日々を送っていたある日のこと。
俺は気づいてしまった。

愛される、という意味を。
そして、それと同時に、俺は誰からも愛されず、関心さえも向けられていなかったと知った。

愛があれば、その人を思い、叱る。
間違えれば、それを叱ってでも、正す。

そんな愛の形を、俺はここに来て、何度も何度も見てきた。

派手に喧嘩をし、警察の世話になった夜。
決まって相手側の親は、子どもを迎えにやってきて、間違ったことをした子どもを叱った。
どの親も厳しい声をあげていたが、その瞳にはきちんと愛があった。

俺にはそんな人はいなかった。
警察に呼ばれて俺の迎えにくるのは、いつも執事の影井で。
影井はいつも困った顔をするだけで、一度も俺を叱らなかった。
俺の親に至っては、興味さえもないようで、そのことについては何も言わず、ただただ学校での成績や、会社での実績を見て、俺を褒めた。

愛されていない。
けれど、今更知ったところで、何とも思わない。
何故ならそれがうちの普通だったから。

満たされない日々の中、唯一自分らしくいられる街で、好きに生きる。
甘える女に気が向いたら手を出して、売られた喧嘩は基本買う。
傷を負いながら生きていくことに、生を感じていた。



「なぁ、お前が千晴か?」



ぼーっと何となく、街を見つめていると、上から声をかけられた。
反射的に顔を上げると、そこにはニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている20代前半くらいの男がいた。



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