推しに告白(嘘)されまして。
「お嬢ちゃんは何も知らないだろ?何も知らないのに口出ししちゃダメでしょ?なぁ?」
1人でここまでやってきた女に、まるで小さな子どもを注意するように、1人の男が猫撫で声を出す。
女はその男をギロリと睨みつけたが、正直、可愛らしくて、迫力には欠ける。
「何も知らない?確かに知らないけど、こんな状況、口出しするには十分じゃない?」
男たちをまっすぐ見据えて、逸らさない女は確かに愛らしいのだが、どこか鬼気迫るものもあった。
ただの女のはずなのに、そうとは思えない雰囲気がある。
「…アイツはね、お嬢ちゃん。俺の大事なだーいじな、後輩の連れをボコったの。あとそこのやつの彼女を寝取ったし、やることやってんだよ?いんがおーほーなの」
くすりと笑い、男の1人が女の手を掴む。
ーーーー次の瞬間。
「…っ!?」
女は見事な背負い投げをその男に披露していた。
女に投げられた男は、状況が飲み込めず、きょとんとした顔をしている。
「これ以上、彼に絡むなら警察に通報します」
ぱんぱんっと両手を叩いて、冷たい視線を彼女が送る。
いつの間にか可愛らしかった子猫は、この場を支配する、ライオンのようになっていた。
彼女の圧倒的なオーラに男たちから先ほどの余裕が消えていく。
「で、できるものならやってみろよ」
と、1人が言うが、その声は弱々しい。
「な、なぁ、やばくね?」
「どうする?」
男たちがそれぞれ顔を見合わせている隙に、その女は俺のすぐ傍まで来た。
「行くよ!」
グイッと小さな手が俺の腕を掴む。
きっと彼女の力では、俺を動かすことなんてできない。
それでも抗う気にはなれず、気がつけば俺は、彼女に引かれるまま、光の方へと走り出していた。