推しに告白(嘘)されまして。
3.眩しい光 side千晴
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女に手を引かれて逃げた先は、すぐ目の前に交番のある公園だった。
日がすっかり落ちた公園内には当然誰もいない。
交番の光と、街灯の灯り、それから月明かり。
光源はたったそれだけだったが、ここはネオン街よりもずっと明るく見えた。
「ここまで来れば大丈夫でしょ…」
大きく肩で息をする女を俺は一瞥する。
女は交番に視線を向け、「こんなところで大乱闘にはならないはず」と汗を拭いながら頷いていた。
それから俺たちはその辺のベンチに腰を下ろした。
「で、さっきの人たちの話は本当なの?」
俺の隣にいる女がこちらに厳しい目を向ける。
確かにあの男たちが言っていたことは本当なのだろう。
覚えがありすぎて、一体どれのことを言っていたのかわからないが。
それをそのまま女に伝えると、女は握り拳を作り、それを大きく振りかぶった。
ゴンッと鈍い音が頭に響く。
気がつけば、俺は女に頭を思いっきり殴られていた。
頭に走った衝撃に、痛いよりも驚きが勝つ。
誰かに叱られて、殴られたのは初めてだ。
「このバカ!何やってんのよ!?」
眉間にシワを寄せ、本気で怒っている女に、何故か胸がじんわり温かくなる。
初めて俺に本気で叱ってくれた。
その事実に胸に違和感を覚えた。
そして初めての感覚に俺は首を傾げ、胸を押さえた。
けれど、すぐにいつもの虚しい感覚が俺を支配した。
コイツは俺が何者か知らない。
以前、警察にお世話になった時、俺を叱ろうとした大人もいたが、警察に事情を説明させると小さくなって何も言えなくなった。
人とはそういうものなのだ。
圧倒的上の存在には逆らえない。
きっと、コイツも同じだ。