推しに告白(嘘)されまして。
「お前、俺にこんなことしていいの?俺、華守の跡取り息子なんだけど。お前なんて社会的に簡単に殺せるよ?大丈夫そ?」
見下すように笑い、冷たく女を見据える。
すると、女はその瞳に力を込めた。
「何、親のことで威張ってんのよ。威張るなら自分の力で威張りなさい。そんな脅しカッコ悪いだけだから」
あり得ない、と言いたげにため息を吐く女に、思わず、笑ってしまう。
まさか、こんなリアクションをされるとは。
「信じてない?俺が華守の跡取り息子だって」
「信じるもクソもないわ。どのみち親の力じゃん」
「ふは、まぁ、そうだね」
当然のように答えた女に俺は最後には吹き出した。
こんなにも心から笑えたのはいつ以来だろう。
この人、面白い。
気がつけば、俺は彼女に興味を抱いていた。
もっと知りたい。
「とにかく!もう悪いことはやめなさい。いつかアンタの身を滅ぼすよ」
勢いよく立って、彼女がもう一度俺の頭を殴る。
けれど、その拳は先ほどとは違い、優しいものだった。
「じゃあね」
最後に笑顔でそれだけ言うと、彼女はこちらに背を向けて歩き出した。
「…あ」
彼女に向けて手を伸ばすが、それは何もない空を切る。
まだ一緒にいたかった。
もっと知りたかった。
そう思ったけれど、もう遅く、彼女の背中は暗闇へと消えていた。
伸ばした手には、ただただ冷たい夜風が当たった。