推しに告白(嘘)されまして。




「ありがとね、柚子。でも、本当に驚いたよ。昨日も連絡取り合ってたし、事前に言ってくれてもよかったのに」

「いや、実は会うつもりはなかったんだよね。悠里くんの邪魔になるだけだと思って」

「え」



私の言葉に、悠里くんが固まる。
しかし、私はあまり気にせず続けた。



「大事な試合前に私が来たらいろいろ大変でしょ?でも、里奈さんが悠里くんに会いに行こう、て誘ってくれて…。だから会いに来ちゃった。本当は会いたかったから。ごめんね、大事な試合前に邪魔しちゃって」



話しているうちにまた申し訳なくなってきて、視線を伏せる。
今こうして話している時間も、悠里くんにとっては惜しい時間だ。
練習に、ミーティングに、相手チームの偵察に、心の準備。やりたいことは山積みなはずだろう。
それを今、私のわがままでこうして奪っている。

罪悪感でいっぱいな私に、悠里くんは何も言わない。
続く沈黙に、おずおずと視線を上げると、そこには耳まで真っ赤にした悠里くんがいた。

な、何故?
私、何かとんでもないことでも言った?



「…かわいい」



ポツリと悠里くんが何かを呟く。
しかし、体育館のざわめきに紛れて、その言葉を聞き取ることができなくて。
聞き返そうかと思ったが、それよりも早く、悠里くんは優しく続けた。



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