推しに告白(嘘)されまして。




「あれ?鉄崎先輩?」

「…っ」



突然、誰かから声をかけられて、私は大きく肩を揺らした。
喉まで上がってきていた悲鳴をぐっと抑えて、声の方へと視線を向ける。
するとそこには、文化祭の時、千晴のクラスでお姫様役に選ばれてしまい、最終的にはダウンしてしまったバスケ部の一年生が不思議そうに立っていた。



「そんなところで何しているんですか?何か悠里先輩に用事ですか?」



こちらに歩み寄ってきた彼を見て、ピン!とくる。

今の会話全て、聞いていなかったことにすればいいのだ。
今ちょうどここへ来たので、何も知らない、と。
そして何事もなかったかのように、冨岡先生から頼まれた封筒を目の前にいる彼に渡せばいい。
そうすれば全て丸く収まる…はず。



「ちょうどよかった。今ここに来たばかりなんだけど、この封筒をバスケ部に渡したくて。冨岡先生からだよ。君、受け取ってくれる?」

「え、あ、はい」



淡々と説明し、サッと封筒を後輩へと渡す。
後輩は戸惑いながらもそれを受け取ると、「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
さすが体育会系である。礼儀正しい子だ。



「それじゃあ」



挨拶もそこそこに、私は表では落ち着いているが、内心では慌ててその場から離れた。

私は何も聞いていない。
何も知らずにこれからも悠里くんに騙され続けるのだ。
それが私の本望だ。



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