推しに告白(嘘)されまして。
「…ふぅ」
一度、まぶたを伏せ、深呼吸すると、私は再び、カッと勢いよくまぶたを開けた。
可愛らしいエプロンに恥じらいを覚えている場合ではない。
私は今、厨房という戦場にいるのだ。
「千夏ちゃん。改めてよろしくお願いします」
メラメラと闘志を燃やしながら千夏ちゃんをまっすぐ見据えると、千夏は「ええ」と優雅に頷いてくれた。
こうして私たちのバレンタインチョコ作りという名の戦いが今、幕を開けようとしていた。
…していたのだが。
「…」
私はここには似つかわしくない、座り心地の大変良さそうな椅子に徐に腰掛けた千晴に疑念の視線を向けた。
千晴は何故、あそこに座って、落ち着いているのか。
しかもこちらを観察するようにじっと見つめているのか。
メラメラと燃えていた闘志が、イレギュラーな千晴の存在によって、少しずつ勢いをなくしていく。
「ち、千夏ちゃん、あれは一体…」
そして私は眉をひそめ、千夏ちゃんに小声で、そう問いかけた。すると、千夏ちゃんは何でもないことのように、あっけらかんと言った。
「お兄様もフィアンセのアナタと片時も離れたくないのでしょう。しかも自分にくれるチョコを作ってくれるのならなおのことね」
「…あ、あー」
深く何度も頷く千夏ちゃんに、私は何とも言えない表情を浮かべる。
これは千夏ちゃんのいつもの盛大な勘違いだ。