推しに告白(嘘)されまして。




「あのね、千夏ちゃん。これから作りたいのは千晴にあげるチョコじゃないのよ。彼氏にあげるチョコなの」



千夏ちゃんの盛大な勘違いを正す為に、苦笑いを浮かべながら丁寧に事情を説明すると、千夏は不思議そうに首を傾げた。



「何を言っているのかしら?これから作るチョコがお兄様にあげるものではない?お兄様はアナタの彼氏…いいえ、そんな甘いものではないわね。婚約者なのだから当然あげるのでしょう?」

「いや、何もかも違いますが」

「何もかも?」



私のさらなる冷静な訂正に、千夏ちゃんが目を白黒させる。
それからしばらく黙った後、カッを目を見開いた。



「ア、アナタ!まさかまだ自分の彼氏は沢村悠里だと言っているの!?まだお兄様と二股しているの!?」

「ちちち、違いますが!?」



千夏ちゃんの続く盛大な勘違いに、私は慌てて首を横に振る。
以前にもきちんと説明したはずなのだが、逆に何故、まだそうだと信じて疑わないのか。

私の否定の言葉に千夏ちゃんは「違うとはどういうことかしら!?」と懐疑的な視線をこちらに向けてきた。
なので、私はゆっくりと、丁寧に、毎度の如く、そんな千夏ちゃんに説明を始めた。



「私がお付き合いしているのは悠里くんであって、千晴ではないの。もちろん、婚約もしていないから。千晴はただの後輩。だから二股とかでもないのよ」

「…は?」



私の説明に千夏ちゃんがまた固まってしまう。
信じられないもので見るような目でこちらをじっと見つめる千夏ちゃんは、まばたき一つさえもしない。

それから千夏ちゃんが黙ること、数十秒。
続く沈黙に、徐に口を開こうとした、その時。

わなわなと震えながら、千夏ちゃんは言った。



「て、照れ隠しではなく?本当にあの完璧なお兄様のことが一ミリも異性として好きではないの?」



疑い深く私を上から下まで見る千夏ちゃんに、私は思わず苦笑してしまう。



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