推しに告白(嘘)されまして。




「お義姉様、そのようなやり方ではいつまで経っても卵は割れなくてよ?もっと強くいたしませんと」

「…わかった。もっと強く、ね」



千夏ちゃんの言葉に頷き、卵を持つ手に力を込める。
それから一思いに、卵をボウルの端に叩きつけた。

ーーーその時だった。

ガァァンッ!と派手な音共に、卵が砕け散ったのだ。

卵の殻は粉々になり、宙へと舞い、卵の中身は飛び出し、テーブル上へと投げ出される。



「…」



ぐちゃぐちゃになった卵だったものに、私は表情を失った。

や、やってしまった…。



「は?」



この惨状に千夏ちゃんが、目を大きく見開いて固まっている。
まさかこうなるとは思いもしなかったのだろう。
そして千夏ちゃんの兄、千晴はというと、優雅に座っていたはずの椅子で自分の腹を押さえ、「あはははっ、先輩、最高…っ」と爆笑していた。

無念すぎる。



「…ご、ごめんなさい」



深く謝罪し、千夏ちゃんに無言で卵を渡す。
すると、千夏ちゃんは何も言わずにそれを受け取った。



「…混ぜる作業はできる?」

「いや、それも力加減がわからず、いつも派手にぶちまけております…」

「そう…。わかったわ」



千夏ちゃんに力なく答えた私に、千夏ちゃんは軽く頷き、何かを考え始める。
千夏ちゃんの次の言葉を待つこと数十秒後。
千夏ちゃんは神妙な顔で私に言った。



「お義姉様はわたくしの作業を見てて。もうすぐ終わりますから」

「…は、はい」



こうして、材料を混ぜる工程は全て千夏ちゃんがすることになったのだった。



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