推しに告白(嘘)されまして。
「…エ、エリーゼのために、とか?」
何とか出てきたクラシックのタイトルに、千晴は「あー。あれね」と淡々と頷く。
それから軽く指を振って、そっとピアノの鍵盤に触れた。
千晴が柔らかく鍵盤を押す。
そこから一気にスピードを持って動き始めた指は、詰まることなく滑らかに動き続け、美しい音色を奏で始めた。
「…」
…綺麗。
千晴から奏でられる旋律に、私は一瞬で引き込まれた。
窓から射す太陽の光を浴びて、キラキラと輝くふわふわの金髪。
そこから覗く美しい顔に、長いまつ毛。
まるで作り物のような美しさを持つ千晴から奏でられるピアノは繊細で、一つの芸術品を見ているようだった。
その姿に、トクンッと静かに心臓が跳ねる。
ふわふわと地に足がついていないような、そんな不思議な感覚がゆっくりと私の中に広がっていく。
この感覚は一体、なんなのか。
何故、こんなにも落ち着かないのか。
冷蔵庫で寝かせている生チョコタルトの生地の安否でも気になっているのか。
どこか落ち着かない気持ちで、けれども心地よく千晴の演奏を聴いていると、その声は聞こえてきた。