推しに告白(嘘)されまして。
「そういえば、庶民も授業でピアノを習うと聞いたわ。お義姉様も何か弾けるのではなくって?」
この暖かい雰囲気の中、ふと、千夏ちゃんがそんなことを言う。するとそれに千晴も反応した。
「え。先輩の演奏とかめっちゃ聴きたいんだけど」
無表情だが、興味津々で千晴が私を見る。
急に集まった2人の視線に私は思った。
ーーーー勘弁してくれ、と。
2人のプロ顔負けの演奏の後に、とてもじゃないが何かを披露することなど到底できない。
ただただ恥を晒すだけだ。
「大変申し訳ないけど、私、楽器は…」
2人の期待には応えられない、とさっさと首を横に振ろうとした。
しかし、2人の表情に私はそこで言葉を詰まらせた。
千夏ちゃんも千晴もキラキラとした目でこちらを見ていたからだ。
「庶民は一体どんな演奏を習うのかしら?某有名ピアノ演奏者も庶民出身で、幼少期の体験が今のピアノ表現に活かされているらしいわ。お義姉様ほどのお人なら、きっと素晴らしい音色を奏でるのでしょうね」
期待に満ちた目でこちらを見る千夏ちゃん。
「先輩ならきっとどんな演奏でもかわいいね。楽しみ」
からかい半分で私を面白そうに見る千晴。
この重すぎる期待の視線が千晴だけなら、問答無用で切り捨てるのだが、千夏ちゃんのあの視線は本気だ。
千夏ちゃんにはいろいろとお世話になっていること、今日も至れり尽くせりなことを考えると、千夏ちゃんのことを無碍にはできない。