推しに告白(嘘)されまして。




「今日、俺、鉄崎さんと一緒にいられてめっちゃ楽しかったよ。鉄崎さんの知らないところとか、知っていたけど改めて知れたところとかも知れて、俺は良かったって思った。本当に楽しかった。ありがとう」



夕日を背に、はにかむ沢村くんには、きっと嘘も偽りもないのだろう。
まっすぐな沢村くんから紡がれた言葉に私の心はふわふわと幸せな気持ちでいっぱいになった。
しかし、それと同時に、やはり推しの大事な時間を奪ってしまった事実に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
きっと沢村くんは私がそう思うことを一切、望んでいないのに。



「…わ、私も沢村くんと一緒にいられて楽しかったよ。いっぱいかっこいい沢村くんを見られて最高だった。本当にありがとう」



推しからのお言葉に応えねばと、なかなか気持ちに折り合いがつかないまま、複雑な表情を浮かべる。
すると、そんな私の様子に沢村くんが優しく口を開いた。



「…鉄崎さんは優しいね。きっと俺が大丈夫って言ってもずっと気にするんだろうな」

「…え、あ、いや…」



沢村くんの言っていることが的確すぎて咄嗟に否定の言葉が出ない。
これでは沢村くんにさらに気を使わせてしまうというのに私は一体何をやっているんだ。



「…じゃあ、一つお願いしていい?」



突然、一緒に歩いていた悠里くんがその場で足を止める。
予想外の悠里くんの言動に私は「お願い?」と首を傾げ、前に出そうとしていた足を止めた。

推しのお願い?一体なんだろう?
推しのお願いなら何でも叶える所存だけど…。





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