推しに告白(嘘)されまして。
私と千晴。
二人で並んで校庭を歩く。
校庭内には、私たちのように合宿を終えた生徒たちや部活をしている生徒たちがおり、まだまだ活気で溢れていた。
そんな賑わいの中で、私はふと、隣を歩く千晴を見た。
夕日に照らされて、キラキラと輝いている目を惹くふわふわの金髪。
そこから覗く、まるで精巧に作られた人形のように美しい顔。
千晴越しに見える咲き始めた桜は、そんな千晴を余計現実離れした存在にさせていた。
私の視界に入るもの全てが美しく、思わず息を呑んでしまう。
本当に見た目だけなら千晴は完璧で絵になる男だ。
…動いてしまえば、いろいろとボロが出てしまうが。
マイペースで我が道を進み、誰の言うことも聞かない。
そんな千晴にどれほど振り回されてきたことか。
今日も私の推しである悠里くんに嫌な態度を取っていたし。
「…はぁ」
今日の千晴と悠里くんの地獄の空気を思い出し、私からまたため息が漏れた。
「なぁに?」
そんな私に気がついたのか、千晴はこちらの気も知らずに、ふわりと緩く笑う。
その柔らかい微笑みに、じんわりと胸が暖かくなり、私の考えとは裏腹に、何でも許してしまいたくなってしまった。
どこかで好きになった方が負け、と聞いたことあるが、こういうことなのだろうか。
何度注意しても直さない校則違反も、私の推しである悠里くんへの態度も、許されるものではない。
それでも嫌いにはなれず、憎めないのは、千晴を好きになってしまったからなのだろう。
それが私はとても悔しい。
「何でもない」
千晴にこの気持ちを悟られまいと、ふいっと千晴から視線を逸らし、いつも通りを装う。
しかし、そんな私の頬に千晴の無言の視線が刺さった。
それもずっと。
…視線が痛いとはまさにこのことである。