推しに告白(嘘)されまして。




「…ちゃんと見てるよ」



思いがけず自分から出た言葉に、頬が一気に熱を持つ。
さらに視界までぼやけて、クラクラしてきた。
〝好き〟だと一言も言っていないのに、まるで告白したあとのような息苦しさと緊張が何故か私を襲う。

何で、こんな…。

自分ではどうにもできない、おかしな症状に戸惑っていると、そんな私を千晴はまじまじと見つめていた。
そして徐に言った。



「…俺のこと、好き?」



千晴の瞳がゆるゆると細められ、私を捉える。
なんと甘い瞳なのだろうか。
こんな目で見つめられて、心が反応しないわけがない。



「…好きじゃない」



それでも私は心になんとか蓋をして、首を横に振った。



「本当に?」

「本当に」



私の視線を絡め取るようにこちらを覗く千晴に、平静を装って淡々と頷く。
じわじわと私を蝕む熱に目を背けて。

だが、千晴はそんな私を無視して、嬉しそうに口元を緩めた。



「嘘つき」



千晴の柔らかい声が空気を震わせる。
ここには私たち以外の生徒もたくさんいるのだが、私の世界にはもう千晴しかいない。
そこにふわりと暖かくなり始めた風が吹き、千晴のふわふわで綺麗な金髪と桜の花びらを揺らした。



< 435 / 453 >

この作品をシェア

pagetop