推しに告白(嘘)されまして。
「先輩のその潤んだ目がね、俺を好きだって、ずっと言っているんだよ?知ってた?先輩?」
クスッとおかしそうに笑い、千晴が私の目尻に優しく触れる。その瞳にはもう先ほどの弱々しさはない。
いつもの余裕を取り戻した千晴は、私の耳元に自身の唇を寄せ、誘惑するように囁いた。
「…ねぇ、アイツと別れて俺と付き合って?先輩?」
千晴の吐息が私の耳をかすめる。
甘く甘くて仕方のない一瞬に、心臓が高鳴りをやめ、止まった。
し、死んでしまう…!
私よりも上手で、こんなにも甘く、ある意味で攻撃的な千晴をもうきっとこれ以上誤魔化し続けることなどできない。
また暴れるように動き出したうるさい心臓の音を聞きながら、私はそう悟った。
「…悠里くんとは別れたよ、昨日の夜にね。けど千晴が好きだから別れたんじゃない。ただ好きの形が違ったから別れたの」
諦めたように一度視線を落とし、意を決して、再び千晴へと視線を戻す。
すると千晴は不思議そうに首を傾げていた。
「よくわかんないけど、先輩は今、誰とも付き合ってないんでしょ?だったら俺と付き合えるじゃん」
わけがわからない、と言いたげな目で千晴が私を見る。
だが、私は例え千晴のことが好きでも、胸が高鳴って高鳴って仕方なくても、自分の考えを変えるつもりはなかった。
「…それでも付き合えないよ。今、付き合えば千晴と付き合う為に悠里くんと別れたみたいになるからね。私、悠里くんが傷つくことはしたくないから。例え別れてても」
「えー」
強い意志で淡々と千晴に私の考えを伝えるが、千晴はどこか不服そうだ。
その目が「何で?」とずっと訴えかけている。
しかしそれでも変わらない私の態度についに諦めたのか、千晴は無表情のまま、私の顔を覗いた。
上目遣いでこちらを見る千晴に、相手は自分よりもずっと大きい男なのに、ついかわいいと思ってしまう。
…これが好きになるということか。