推しに告白(嘘)されまして。




推しのピンチだ。これは見逃すわけにはいかない。

ゆらりと雪乃から離れて、ゆっくりと悠里くんの元へと向かう。
その過程で、先ほどの情けない柚子から、鬼の元風紀委員長鉄子へと表情を変えていく。
そんな私に雪乃は「いってらぁ」とゆるく手を振っていた。

無言で女子生徒たちに近づくと、私の圧に気がついた誰かが小さな悲鳴をあげた。



「ひぃ…っ!てててててて、鉄子先輩…っ!」



その声に先ほどの喧騒が嘘かのように、一気に静まり返る。



「この騒ぎは何?」



女子生徒たちの視線を一斉に浴びた私は鬼の元風紀委員長モードで彼女たちを睨んだ。



「ご、ごめんなさぁーい!」

「し、失礼しましたー!」

「まだ死にたくないですぅー!」



そして女子生徒たちは青ざめた顔で、蜘蛛の子を散らすように、その場から慌てて離れていった。
その結果、人混みの中心にいた、神々しい存在が私の前に現れた。

柔らかい風に吹かれて、ふわりと揺れるサラサラの黒髪。
そこから覗く整った爽やかな顔立ちは何よりもかっこよくて、眩しい。

悠里くんは私の姿を見つけると、嬉しそうにその瞳を細めた。



「柚子」



愛おしそうに私の名前を呼び、悠里くんがわざわざ私の元まで来てくれる。

ああ、私の推しはなんて尊いのだろうか。
ただの校庭が悠里くんが歩くと、なんかすごいランウェイに見える。



< 441 / 453 >

この作品をシェア

pagetop