推しに告白(嘘)されまして。




「…先輩、ずるい」



千晴が困ったように眉を下げ、私の手に頬をすり寄せる。
まるで撫でられたいとねだる可愛らしい子犬のようだ。

千晴は頬に触れる私の手に自身の手を重ねると、またゆっくりとこちらに綺麗な顔を寄せてきた。
…が、私はそれを拒むように顔を窓の方へと逸らした。

窓の外には悠里くんを始め、雪乃やバスケ部員、たくさんの女子生徒たちがいる。
私の視線の先のにいる彼らは、案の定、いろいろな表情を浮かべてこちらを見ていた。



「やめてー!鉄子先輩は悠里先輩のものなのー!」

「違う!鉄子先輩は千晴くんのもの!いけー!千晴くーん!」



悠里くん派閥の女子生徒と千晴派閥の女子生徒が互いに睨み合い、



「あ、あ、あー!今はその時じゃないー!ストープッ!」



バスケ部の生徒たちは大騒ぎでこちらを止めようとしている。
雪乃はニヤニヤしており、悠里くんはどこか寂しそうにこちらを見ていた。

…キスをするにはあまりにも注目を浴びすぎている。



「…」



窓の外からだけではなく、すぐ目の前から感じる千晴からの抗議の視線に、私は呆れたように笑った。



「人目があるからダメ」



はっきりとそう言って、千晴からさっさと離れようとする。だが、千晴はそれを許さず、私を離そうとしなかった。
そして、私を抱き寄せたまま、カーテンに手を伸ばし、ためらいなくカーテンを閉めた。
カーテンが閉められたことによって、外からこちらが見えなくなる。



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