推しに告白(嘘)されまして。
千晴はきっとあのチケットの値段や価値をちゃんとわかっていないのだ。
あれはレシートと同じような扱いをしていいものではない。
「で、一緒に行ってくれるの?先輩?」
千晴の何もわかっていない言動にやきもきしていると、どこか甘えるようにこちらを見る千晴と目が合った。
キラキラと輝く日本人ならまず似合わせることの難しい金髪から覗く、綺麗な瞳がこちらをまっすぐと見つめている。
私と一緒に行きたい、と訴えるその瞳に私は複雑な気持ちになった。
「…千晴の先輩ってだけで、そんな高価なチケットでメルヘンランドには行けないよ」
私は千晴にとってただの口うるさいだけの先輩だ。
そんな私がこんな貴重なチケットを使える訳がない。
VIPチケットでメルヘンランドに行ってみたい気持ちももちろんあるが、さすがにそれは気が引けるし、受け取れない。
「だから私じゃなくて、もっと仲のいい人とか大切な人とかと行きな…」
「そんな人先輩しかいない」
「え」
「だからそんな人俺には先輩しかいないよ」
寂しそうにこちらを見る千晴の言葉に、嘘だ、と一瞬思う。
だが、それは本当に一瞬だけで、すぐに千晴の言葉は本当かもしれない、と思った。
悪い噂が絶えず、生徒たちに恐れられ、距離を取られている千晴が学校で誰かといるところを見たことがないからだ。
「柚子先輩が一緒に行ってくれないなら、俺、メルヘンランドに行けない」
私よりも倍大きい男がシュンとした表情で私を見る。
「わ、私は沢村くんの彼女で…」
「チケットはあるからあとは行くだけなのに」
「だから私は…」
「柚子先輩しか行く人がいないのに」
「だから、わ、私はっ」
「行きたかったな…」
「〜っ」
どこか辛そうに私から視線を逸らした千晴に私の良心がとうとう限界を迎える。
「…わかった。一緒に行くよ」
「本当?ありがとう、先輩」
ついに頷いた私に千晴は先ほどの辛そうな表情が嘘かのように嬉しそうに笑った。
…ま、負けた。
あんな寂しそうな顔をされては良心が痛んで断れない。