推しに告白(嘘)されまして。
「全く毎度毎度!服装くらいちゃんとしろ!髪も似合ってるけど戻しなさい!」
「えぇ?別にいいじゃん。服は先輩が直してくれるし、髪もこの方が先輩構ってくれるし。似合ってるみたいだしよくない?」
「よくないわ!校則くらい守れ!」
怒って目の前でヘラヘラしている千晴の耳を思いっきり引っ張ってみるが、千晴は「痛ぁーい」と言うだけで、何故か嬉しそうだ。
頭が痛くなるのだが。
そんな私たちのやり取りを生徒たちは今日も遠巻きに見ていた。
「さすが鉄子先輩だ…。あの華守相手に引けを取らないなんて…」
「は、華守くんって、イケメンだけど怖いよね…」
「この前も街でガラの悪い人たちといたらしいよ。ヤクザとかあっち系の人と交流があるんだって」
「目が合うと殴られるらしいぜ」
「で、でもかっこいいよねぇ…」
「鉄子すげぇ」
憧れ、恐怖、羨望、など様々な視線を一斉に集める千晴に私は大変だな、と思う。
だが、同時に仕方ないとも思っていた。
この見た目というだけで噂の的なのに、素行まで悪いとなると目立って仕方ない上にいろいろ言いたくもなる。
何人かの生徒たちの自分に関する話し声が聞こえたのか、千晴はどこか不満そうな顔をしていた。
何を言われても平気そうな顔をしている千晴だったが、思うところがあるみたいだ。
生徒たちの気持ちもわからなくはないが、ここはちょっと注意するべきか。
「ちょっと…」
遠巻きに見ていた生徒たちに注意する為に、千晴から離れようとしたその時、千晴がグイッと私の腕を引き、その場に引き留めた。
それから「もう行っちゃうの」と、どこか寂しげに問いかけてきた。
…不覚にも自分よりも遥かに大きいこの男のことを可愛いと思ってしまう。