推しに告白(嘘)されまして。
「価値しかないよ。俺にとってはここの景色よりも先輩の方がいい。どの先輩も可愛いし、記録に残しておきたい」
「はぁ…」
やはり、千晴の言動の意味がわからず、間の抜けた声を出す。
常々変わりものだとは思っていたが、ここまでとは。
変なやつ、と思いながらも私は目の前にあるジュースのストローに口をつけたのだった。
*****
ラウンジで休憩した後、私たちはもう少し遊んで、それからお土産屋に入った。
お菓子に服に人形にキーホルダー。
広い店内には見切れないほどたくさんの商品が並べられている。
あれもこれもと目移りしながらも、私はあるものを手に取った。
メルヘンランドのメインマスコットキャラクターの一つ、薄いふわふわのピンクの毛に黄色の垂れ目が可愛らしい、メルヘン猫のマスコットキーホルダーだ。
尻尾の付け根にある赤のリボンが特徴的で、メルヘン猫は、メルヘンランドのキャラクターたちの中でも一二を争う人気キャラの一つだった。
沢村くんにお土産を買いたいけど、これはちょっと可愛らしすぎるかな。
そう思って、他のキャラクターたちも見るが、やはりどれもふわふわで可愛らしい。
そもそも私からのお土産なんて沢村くんにとって、いい迷惑かもしれない。
付き合っているとはいえ、私たちの関係はあくまでも、沢村くんがバスケに専念する為の偽りの関係だ。
そんな何とも思っていない偽りの彼女が突然お土産なんて渡してきたらどう思う?
沢村くんは優しいので、きっといらないと思っても、笑顔で受け取ってくれるだろう。
そしてその後、これはどうしたらいいのか、と悩むのではないだろうか。
私の軽率な行動で推しを困らせてしまうなんて。
そんなことはできない。
私はそこまで考えると、メルヘン猫をそっと棚に戻した。
「どうしたの?買わないの?」
一連の流れを見ていた様子の千晴が不思議そうに私を見る。
「いや、買わないっていうか買えないっていうか…」
「?だったら俺が買おうか?」
「いや、違う。私が欲しいんじゃなくて、沢村くんにお土産として買おうかなって思ったんだけど…」
そこまで言うと私は先ほどまで考えていたことを千晴に包み隠さず話した。
私の話を聞き終えた千晴は珍しく、にっこりと笑った。
「買ってあげよ?絶対欲しいと思う」
「そうかな?」
「うん、絶対」
「じゃあ、買おうかな」
千晴に背中を押されて、もう一度メルヘン猫のマスコットキーホルダーを持つ。
そんな私にどこか意味深に笑いかける千晴に、私は一瞬だけ違和感を覚えたが、すぐにその違和感は消えた。
千晴はただ私にいつものように笑いかけているだけだろう。そこに深い意味はないはずだ。