推しに告白(嘘)されまして。
2.わかっていない
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「…かっこいい」
お昼休み。
私は今日も教室の窓際の席で、雪乃と弁当を食べながら、外でバスケをしている推しこと、沢村くんのことを見つめ、うっとりとしていた。
今日のような沢村くんと一緒に昼食を食べられない時は、決まって沢村くんはいつもあそこでバスケをしている。
それが私と付き合う前からの沢村くんのお昼の過ごし方で、私と付き合うようになってから、沢村くんは週に2回ほど私の為に時間を作り、私と一緒に昼食を食べてくれていた。
全て彼氏としての責任感から。
絶対私と昼食を食べるよりも、気心知れた友人たちとバスケをしている方が楽しく、有意義なはずだ。
それなのに、ただ付き合っているというだけで、私の為にわざわざ時間を作ってくれるとは、なんて私の推しは優しく、完璧で究極の彼氏なのだろうか。
「…はぁ、かっこいい」
ボールを持つ沢村くんの周りに集まってきた相手チームの男子生徒たちを難なくかわし、遠くから綺麗なフォームでシュートを決めた沢村くんに、思わず感嘆の息が漏れる。
沢村くんを見ながら食べるご飯が一番美味しい。
「…ふ、相変わらず好きだねぇ、王子のこと」
「へ?まあ、うん。好きだね」
私の視線の先に気づいた雪乃が、揶揄うように笑ってきたので、私は当然だと頷いた。
雪乃の言っていることに間違いは一つもない。
私は沢村くんのことが好きだ。
「アツアツね。最近、様になってきたよ、2人とも。ちゃんと付き合っているように見える」
「本当?私ちゃんと彼女できてる?」
「できてるできてる」
私の言葉に気だるげに頷く雪乃に私はホッとする。
以前、付き合いたての頃、私たちは本当に付き合っているのか、と疑われるような関係だった。
だが、この1ヶ月で、登下校や昼食を共にし、デートまでした私たちは、もう誰もが認めるカップルとして定着しつつあった。
この学校で沢村くんに興味を持つ者で、私が彼女だという事実を知らない者はおそらくいないだろう。
私はしっかりと彼女という名の壁になるという役割を果たせているようだ。