推しに告白(嘘)されまして。





「…別に許されたくて言ったわけじゃないんだけど」



不服そうにそう呟いた千晴が私から視線と落とす。
それから机の上に置いてあった私の右手に自身の左手の指をするりと滑らせると、何故か絡ませてきた。

何の予告もなく、突然私の手を捕らえた千晴の手。
私よりも大きくて、硬い千晴の手に、私は、私とは全然違うな、という、月並みの感想しか出てこなかった。
千晴は男で、私は女なので、当然の違いだといえば、そうなのだが。

だが、そう思うと、何故か急に相手はあの千晴だというのに、気恥ずかしくなってきた。



「…」



それでも何事もないように平静を装う。
頬に少し熱を感じる気もするが、きっと気のせいだ。

だが、どこかむず痒くて、つい千晴から視線を逸らしてしまう。
この時、私は千晴が私の小さな変化に気づき、まるで獲物を狙う肉食獣のような目で、私を見ていたことに当然気づかなかった。

私が視線を逸らしている間も、千晴は無言で私の手に優しく触れ続ける。
やがてその手は私の手を下から優しく掴み、そのまま自身の方へと引き寄せた。

そして何故か千晴はそんな私の手の甲に唇を寄せた。

え、キスされた?手の甲に?

視界の端で何となく見えた千晴の行動に、私は思わず目を見開き、千晴の方を見る。
すると、まっすぐと、だけど、どこかイタズラっぽくこちらを見つめる千晴と目が合った。

それから千晴はもう一度私の手の甲に唇を寄せ、何と今度はペロリと私の手の甲を舐めてきた。



< 80 / 362 >

この作品をシェア

pagetop